ネタメモ:母の再婚
ツッキーのお母さん、記憶飛んでるのもありますし、好きな人出来て再婚するんですけど、その相手が奥さんと死に別れた子連れで、神主やってて、見える人でツッキーのカゲボウズ封じちゃうみたいな展開やりたいんだけど、いつになるやら。
どーすんだよ、と頭抱えてたら、
「協力してあげようかお兄ちゃん」
とか連れ子に言われ
「誰がお兄ちゃんなの」
「あら、戸籍上はそうよ」
「……」
「ところでお兄ちゃん彼女いるの」
「ぶっ」
「どのまでいったの」
などと尋問される。
「お父さんの持ってるポケモンとやり口、教えてあげるわよ」
「なんだって君がそんな事教えてくれるんだい」
「反抗期ってやつよ。私とお兄ちゃんと、彼女さんでかかればなんとか勝てるわよ」
「それってかなり強いよね…」
ミシマ「ツキミヤくん、妹さんいたんだ」
ツキミヤ「最近できたんだ」
【書き出し】
祭の時期でもないのに、いくつもの篝火が夜の闇に揺れていた。
鳥居を潜って足を踏み入れた境内は静かだった。見下ろすビルの明かりは僅かばかり。冷たく清浄な空気、大事な儀式を前にした緊張感がこの空間にはあった。
ぱちぱちと弾ける火の音が、青年の耳に響く。篝火が揺れて、青年の影を揺らす。いくつもの光源が青年の影を複数作り出している。
青年は歩を進める。本殿に続く参道の右手には古い能楽堂が見えて、そこには神主の装束を纏った一人の男が立っていた。男は能面を被り、その手に弓を携えている。背負った箙(えびら)からは何本かの弓矢に混じって梅の花の枝が覗いていた。
男が背中の矢に手を伸ばす。一本を取り出すと、弓につがえ、青年のいるほうの中空に弧を描くようにして放った。矢は弧を描き、炎に踊る青年の影の一つに刺さる。
途端に胸に鋭い痛みが走った。
青年は胸を押さえて、膝をついた。脂汗を垂らしながら、荒く息をして能楽殿の射手を見据える。その瞳は大きく見開かれそこには驚きの色があった。そして普段なら、青年の影がその正体を現して射手に襲いかかるはずだった。
だが、青年の影からは何も出なかった。影が照らされた地面でのたうち回るように暴れているが、それらが地上に湧き出すことはついになかった。
「が、……は」
青年は苦しげに息を切らすように胸を押さえる。
矢が刺さっているのは影なのに、本当に刺されてしまったかのように苦しかった。
射手が二撃、三撃を放つ。その度に矢が篝火の照らす別の影に刺さって、青年は苦しげな声を上げた。
「……おに、び」
やっと口にしたその言葉は境内に夜の闇にむなしく溶けただけで、青い火が矢を焼くことも、射手に飛んでいくこともなかった。
異常事態を察した「手持ち」達が、彼の持つ機械球から自発的に飛び出した時、青年は傷もないのに満身創痍の様相だった。緑の小さな鳥ポケモンが心配そうに寄り添い、その小さな身体を擦り付ける。大きな銅鐸の形をしたポケモン、小さな土偶の形をしたポケモンが射手に対峙するように青年の前に立った。
「矢だ。矢を抜いて……くれ」
青年は言ったが、矢には何らかの力が籠もっていて、銅鐸と土偶の念動力をもってしても抜けなかった。
「……いいポケモンを持っているんですね」
意外だ、とでも言いたげに射手の男が言葉を発した。
「少し安心しましたよ。だとすれば尚のこと、これは取り除いた方がいい」
能楽堂の奥、男の背後から二匹のポケモンが現れる。赤地に黒の縞の大型の獣のポケモン、そして観音とか弁天とかに雰囲気の似た、仏頂面の痩せた人型ポケモンだった。青年の二匹、射手の二匹が睨み合い、ポケモン同士は膠着状態に陥った。無情に四撃目、五撃目を放たれて、青年の影を穿つ。ポケモン達は動けず、寄り添う小さな緑玉は主人が呻く様を心配そうに見上げるばかりだった。
「あと一投です。痛いでしょうが我慢して下さい」
射手がそう言って、最後の一矢を放った。
影に刺さった六本目の矢、肺を貫かれたかのような感覚。青年はまるで血を吐く肺病患者のようなひどい咳をした。息がうまくできなかった。
緑の玉鳥は刺さったばかりの矢に飛びかかる。翼を硬化させて思い切り斬りつけた。だが何かの力に加護されているのだろう。矢はびくともせず、斬りつけた自身が跳ね返ってひっくり返った。
ひょいっと起き上がった緑玉は再び矢を斬りつけようとしたが、何者かの気配を察知してピンと冠羽を立てた。
緑玉は境内の拝殿に向かい鋭く飛んだ。テレポートを駆使しながら対象に迫っていく。鋼の翼が、拝殿の鈴尾を切る。だが、シャラッと鈴が鳴ったあの直後、玉鳥の姿が一瞬にして消えた。まるで空間の狭間に吸い込まれるが如く。
拝殿から現れた童女のようなポケモンに刃物と化した羽が肉薄したその瞬間の出来事だった。
「クエビコ!」
青年が叫ぶ。が、激しい痛みに咳き込んで地面に伏せった。
そして見た。髪を二つに結んだような、童女のようなポケモンがその大きな両の瞳を赤く光らせたのを。呼応するように赤い髪飾りのような突起の芯が息を掛けられた炭の火のように燃えている。それが放つ熱量が瞳の光より大きくなったその時、童女の頭上が指でつまんで捻ったかのように歪んだ。
その様子は、水を湛えた浴槽の栓を抜いた時のようだった。
空間が渦潮を巻いた。青年の柔らかい髪が穴のほうへ棚引いている。栓が抜かれた穴に向かって風が吹き込んでいく。ブラックホール、という単語が彼の内によぎったが、人を吸い込むほどに強力ではない。だが、それはあるものを強力に吸い取る力を持っていた。
それは青年の影だった。影が、まるで海峡に出来た渦潮のように模様を作って、吸い込まれていく。夜色の模様を宙に描きながら。
青年は自らの中身が急速に失われていく感覚に見舞われた。血を大量に抜かれているかのような。
「返せ!」
半ば殺意にも似た感情を伴って、青年は叫んだ。青年は痛みに呻きながら身体を奮い立て、立ち上がる。
それは喰らう者たる自負を持つ青年にとって屈辱的な出来事だった。ポケモンを睨みつけるその瞳は夜色を宿し、中心が黄に輝いていた。本性の宿った眼。獲物を捕らえ、己が敵と戦う時の。
だが、それも長く保たなかった。すうっと毒素が抜けたかのように、瞳から夜の色が消えていく。元の青年の薄く淡い色に戻っていく。いや、戻ったのではない。吸い取られている。
渦は大雑把になり、やがて消えた。それは青年の影に宿った闇夜が、数多のカゲボウズ達がすべて、栓を抜いた浴槽の向こう側へ行ったことを意味していた。
青年は意識が急速に遠のいていくのを感じていた。自身の身体が膝をつき、上半身が崩れるように倒れ伏したのが分かった。
今や童女の髪飾りは光を失い、静かに青年を見つめるのみだ。背後から射手と思しき足音が近づいてきたが、今や青年にそれを遠ざけるだけの力は残っていなかった。
痛みは引き始めていた。が、ひどい貧血のような感覚と疲労感があって、ついに彼は瞼を降ろした。