017のネタ帳

ポケモン二次創作ネタとか。

藤末健三、同人誌を出す

「同人誌を出そうと思います!」
 ある夜のミーティング中、にこやかに藤末さんが言って、
「何考えてるんですか!」
 と僕はツッコミを入れた。
 ここは千代田区にある参議院議員会館1009号室である。僕は坂田。藤末さんの公設第一秘書を務めている。こんな時、議員の暴走を止めるのは秘書たる僕の仕事だ。
 だが、
「いや~この前ね、不健全図書審議会の傍聴に行ったんですよ。そうしたら栗下さんがいらっしゃって、同人誌を貰っちゃったんです。で、先生は出さないんですか? って誘われちゃいましたね~」
「栗下都議ーッ!」
 僕は叫んだ。

 なるほど……藤末さんに現物を渡すとは……現物は説得力が違う。同人誌が一般化してきて、藤末さんの委員会質問で即売会の名前までもが乱舞する昨今であるが、議員が同人誌を発行するのはまだまだ珍しい。
 そこに新しいもの好きの藤末さんが都議から同人誌を渡されたとあっては影響されないはずがなかった。
 しかしこう、昔初音ミクをPVに使おうとしてオタクの皆さんからの怒られが発生した苦い過去が藤末事務所にはある。安易に作って大丈夫なのだろうか。これは慎重を期さなくてはならない。こう、公設第一秘書的に!
 しかし、
「で、ジャンルは何になさるんですか?」
 と、すかさず聞いたのは先輩である堀井政策秘書だった。
「さすが堀井さん、話が早いですね!」
 藤末さんがにこやかに言う。
 そして高らかにこう宣言した。

「ジャンルは、BLにしようかと思います!」

「よりによってそっちかよーーーーー!」
 僕は叫んだ。
「いやいやいや、これは作戦なんですよ、坂田さん。かの山田太郎さんだって秘書の坂井さんとのBLを書かれて、この人は理解があるから信用できる! と話題になったんです。ちなみに音喜多さんも出てて三角関係でした。BLは信用、品質保証なんですよ? それに不健全図書審議会で不健全図書指定されるのも今はBLが多いんです!」
「だからって書かれるのと、うちの事務所が出すのは違うでしょー!?」
 僕はさらにツッコミを入れた。
 どうしてうちの先生はこう変なところにばっかり思い切りがいいのか。
 前だって、いきなり香川県に行きますよ! ゲーム規制条例阻止です! って行って出かけちゃうし!

 いや、結果としてそれは藤末健三の大幅な認知アップにつながったからいいんだけれど。あれは惜しかった。いいところまで行ったのに。阻止できたらもっとよかった。
「では堀井さん、坂田さん、さっそくそこのソファで熱く抱擁しあってください。攻めは堀井さん、受けは坂田さんでお願いします!!」
「ちょっとーー!?」
「目指すは東京都不健全図書指定です!」
「そもそも同人誌は対象じゃないですよォ!」
「それくらいのクオリティを目指すと言うことです! 過去には絵が上手すぎて規制を食らった漫画もあるそうですから、指定は品質保証! 東京都が税金をかけて行っているこの漫画はエロいし、けしからんから子供には見せたくないセレクションなんですよ!」
「詳しいですね!?」
「トゥイッターで白いねこのようなアイコンの人が教えてくれました!」
「お炬燵どらごーん!!!」
 僕はツイッターでいつも藤末健三を応援してくれる白いねこのようなアイコンの人の名前を叫んだ。

 いつもありがとうございますッ! 助けて!!!
 だが、僕の叫びは炬燵さんにはとどかなかった。それどころか僕が席をたった途端、後ろから堀井さんに羽交い絞めにされてしまったのだ。
「ちょっと! 堀井さん、何するんですか!」
 僕が叫ぶと堀井さんは僕を羽交い絞めにしたまま、ぽろぽろと涙を流し始めたのだった。
 ああ、堀井さん……藤末さんの暴走に心を痛めているんですね……。
 無理もない、と思っているとさめざめと泣きながら堀井さんは語り始めた。
「ウッウウ……思えば藤末事務所に入り、藤末さんと駆け抜けて十六年、様々な無茶振りをされたものです。選挙のプロモーションビデオに初音ミクを使おうとして、ニュースになっちゃたりして、ツイッターでオタクの皆さんに怒られたりとか」
 堀井さんは再びぽろぽろと真珠にような涙をこぼした。そしてこう振り返った。
 思えばネット選挙の解禁を誰より望んでいたのが藤末であった……と。国会議員の中ではツイッター最古参の一人であった、と。全国比例候補はネット選挙に有利。ネットを使って広くアピールできる。いつしかネット選挙の時代が来る、そう藤末は確信していた。しかし日本においてネットを有効活用できる候補者はなかなか現れなかった。藤末の名前もなかなか広がらなかった……と。
「ウッウウ……あの時は辛かった……藤末さんはただ、若者に政治に関心を持って欲しかった。奨学金制度だって頑張ってて、若い有権者にアピールしたかっただけだというのに……」
 堀井さんはこの事務所で一番長く仕事をしている。事務所のスタッフの筆頭の秘書が堀井さんなのである。
 藤末さんへの思いは誰にも負けない。
「しかし、とうとうチャンスが来ました。今やゲーム規制への対抗や同人誌即売会支援で藤末の名前は広まりつつあり……僕は本当に嬉しいんです。藤末健三、四期目は飛躍します!」
 羽交い絞めに力がこもる。
「ですからこの堀井、藤末健三のためなら秘書筆頭としてBLでもなんでもこなす覚悟です……!」
「なんでそうなるんですかー!?」
 僕は公設第一秘書としてツッコんだ。
「そこは筆頭として先生をたしなめてくださいよー?!」
「諦めてください坂田さん。これも先生の当選のため。同人を愛するみなさんに認知いただくためには避けて通れない道だったんです。いつかはこんなことになるんじゃないかと、去年の夏あたりから覚悟を決めてました」
「達観しすぎだし、覚悟決めるの早すぎですよ!?」
「それにもう、山田太郎さんと坂井さんとの三角関係、書かれちゃったし。同人誌じゃなくてブログだけど。だからおにぎりアクションだと思ってやりましょう?」
「何をにぎるつもりなんですかー!? にぎるのは官僚への質疑とお米までにして欲しいです!」
 僕は暴れようとしたが、堀井さんは放してくれない。
「いいですね! 参考になります! 堀井さんもっと攻めてください」
 気が付けば藤末さんがスマホのカメラを向けているではないか。
「ちょっと!! 何録画してるんですか!!」
 間違ってもツイッターには上げないでくださいよ!
 絶対ッ上げないでくださいよッ!!!
 って、ちょっと堀井さん、壁ドンしない!
「先生、印刷屋さんはねこのしっぽさんでいいですか」
 と、聞いたのは公設第二秘書の星井さんだった。
 僕が堀井さんに壁ドンされている間に印刷所選定を進めないでほしい。
「そうですね~。ねこのしっぼさんは対応も丁寧ですし、それがいいと思います! きっとねこ社長も喜んでくださいますよ!」
「ちなみにコミケまでの早割だとあと◯日ですね」
「星井さん! 冷静にスケジュール調整してないで助けてください!!!」
 僕は公設第二秘書に助けを求めた。
 だが星井さんは悲しい目を向けただけだった。
「え、ちょっと! なんですか、その全てを諦めたような目は」
「坂田さん、諦めてください。これも先生の当選のためだ。あとで雰囲気たっぷりのホテルを取るからもうちょっと待っててくださいね」
 っていうか、今さらっと言ったけれど、何に使うホテルです、それ!?
「小崎さーん!」
 僕は最後の望みを託すようにしてリモートで参加している熊本事務所の事務員さんに望みを託した。
「藤末さんを止めてください」
 小崎さんは藤末さんの鬼滅柄マスクを作成している。藤末さんの飛沫の拡散を防ぐように、藤末さんの暴走も止めてくれるかもしれない。

  すると画面に映った優しそうな女性はにっこりと笑って
「私、BLは二次元も生モノも大好きなんです。すっごい楽しみです!」
 と言った。
「腐ってやがるーーーーーーー!」
 この画面の女の人も! この事務所も!
「うわー! こんな事務所やめてやるーーー!!!」
 僕は叫んだ。

 

 こうして、勉強熱心な藤末さんはいたいけな秘書の心と身体を犠牲にし、寝る前にkindleでBLを読み漁った。「VRおじさんの初恋」をはじめ、様々なジャンルのBLマンガや小説を研究したのだった。
 藤末さんは忘備録がてらamazonに書評をつけている。おかげで近頃読んだもの一覧がBLだらけになってしまったことは言うまでもない。
 ちなみに、東京都が税金をかけて「このマンガがエロくてけしからんので区分陳列ないし店で売るなセレクション」こと不健全図書に選定したBLマンガはamazonも売らなくなってしまうので、星井さんがほかの通販サービスから取りそろえることとなった。おかげで鬼滅ネクタイに並んで議員会館の本棚がいい男だらけ。レクに来た官僚のみなさんを威圧するのに一役買っている。
 かくして藤末健三著、BL小説かつ同人誌デビュー作「国会議員秘書のおしごと ~we are the one~」がねこのしっぽに入稿されたのだった……。

 

 昼下がりの藤末事務所、第一秘書坂田はもう一人の秘書の体重を感じていた。
 来客用のソファ。そこに折り重なる二人の身体。
 第一公設秘書に、政策秘書の顔が迫る。
「だ、だめです……あなたには藤末先生がいるじゃないですか……!」
 坂田は、やめてくれ、と懇願する。
「だめなんだよ、坂田。藤末先生は惚れっぽくて、今は山田太郎議員に夢中なんだ。それに不健全図書審議会で、都庁で何度も栗下都議と密会を繰り返しているんだ……。先生の惚れっぽさは超党派なんだよ。しかもだ、この前なんか即売会でねこ社長が藤末さんを探していたんですよ。何かあったに決まってる! 昨日なんか赤松先生の自宅にまで押しかけて、秘蔵のエッチな原稿を見せてもらった上、あんなことやこんなことまで。ああ、もはや官民関係ない! あまつさえノーベル平和賞授賞式では国際的にイチャイチャ……。おかげで最近の僕はふじすえフォーラムで熱い視線が注がれるのにだって嫉妬するようになってしまった! だから僕は、こうやって浮気して、藤末先生の気を引くしかないんだよ……!」
「そんなことないッ! 藤末さんの胸には堀井さん、いつもあなたがい……アッ! 何をするんです! アアッ!」
 むぐう、むぐぐぐう!
「っていうか! 藤末さんの同人誌なのに、なんで秘書×秘書なんですかー! 藤末さんが絡むところでしょー!? なんか間違ってませんかァ!?」

「っていうか今気が付いたんですけど、同人誌ってカップリングだけじゃないですよね!!?」

「普通に政治活動報告とかありますよねェ!? おぎの議員みたいに! おぎの議員みたいに!」

「いや、あの人はFGOの同人誌とか出してましたけど!!」

 ………………

 …………


「……ハッ!」

 気が付くとそこはいつもの議員会館だった。どうも僕は事務所で居眠りしてしまったらしい。
 そしてちょうど藤末さんが会議から帰ってきた。事務所メンバーでミーティングを始まる時間だった。
 よかった……夢だったんだ。
 よかった、よかった……あー、よかった。
 最近、藤末さんと即売会の視察に行きまくっていたせいか、変な妄想をするようになっちゃったらしい。
 ミーティングが始まる。
 堀井さんはいつものようにカリカリと熱心にメモをとっていた。
 話題は次から次へと移っていく。藤末事務所の労働時間は長い。仕事熱心な先生ほどどうしても長くなってしまう。気が付けば議員会館の時計は夜遅いですよ、という時間を指している。
 そしてそろそろミーティングも終わりかな、という頃、藤末さんがにこやか言った。

「そうそう、C99向けに同人誌を出そうと思います!」

 僕は目の前が真っ暗になった。
「ウワアアアアアア! 正夢だったーーーー!!」
 気が付くと、絶叫を上げながら会館を飛び出していた。
 別にカップリングじゃないから大丈夫ですよ、藤末の取り組み、即売会とかゲーム規制の話に決まってるじゃないですか、という何かを察したらしいメッセージが堀井秘書から入るのはこの三十分後の話である。


おしまい

 

 

 

参考:
東京都マンガ規制の歴史 1950~2020(AMG東京 栗下善行)
https://ec.toranoana.jp/tora_r/ec/item/040030879658/
哀しみのヒュアキントス/秘書と議員と29万(南條ななみ)
https://yamadasakai.booth.pm/
VRおじさんの初恋(暴力とも子)
https://online.ichijinsha.co.jp/zerosum/comic/vrojisan
おいでよ傍聴! 東京都政傍聴日記 5(南條ななみ)
https://afee.jp/2020/06/28/10499/

 

質問:ゲーム規制、同人誌即売会、エンタメなど

2020年12月2日 地方創生及び消費者問題に関する特別委員会(冒頭)
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=6057

2021年1月28日 財政金融委員会質問(冒頭)
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=6117