017のネタ帳

ポケモン二次創作ネタとか。

議員と秘書とおにぎりアクション

 僕は坂井崇俊(さかいたかとし)。参議院議員山田太郎さんの公設第一秘書である。
 2016年の落選のから三年、2019年選挙で返り咲いた山田さんが国会に戻ってきた。与党入りした山田さんは、毎朝八時から会議、会議、会議の連続。知財関係の役職がついて毎日忙しい日々を送っている。

 ところで最近、妙に山田さんの周りをちょろちょろしてる奴がいるんだ。

 ネット選挙を制し、54万もの大量得票で与党入りした山田さんは今や引っ張りだこだ。山田太郎に学べといろんな先生方に呼ばれている。
 しかしこいつは筋金入りだ。色んな会議で狙ったように隣に座ってくる! あまつさえ、パシャパシャと山田さんと撮った自撮りをしてツイッターに上げているんだ!
 僕はおもむろにスマホを開き、青い鳥のアイコンをクリックした。
 ツイッターってイライラしてるのに見ちゃうよね! 本当に僕ってツイ廃だ。
 そしてそういう時に限って、あのアイコンが目に入る。あの男のアイコンが。
 アッ更新された!
 お決まりの自撮りの写真、山田太郎さんが一緒に写っている。

 


 ムキーッ! こいつ選挙の時から事務所に来たり、ツイッターで絡んだりちょろちょろしてたけど、最近ちょろちょろ度が増してきたぞ! 部会でも、議連の会合でも、あ、山田さんおはようございます! とか言って近くに座ってくるし!
 つーか撮るなら背中じゃなくて顔も撮れっての!
 いや、一緒に顔並べられたら、それはそれで僕がムカつくんだけどさ!

 思わずリプを監査してしまう。
 アッこの議員、とんでもないリプしてるじゃないか!

山田太郎さんは20年来の友人です」
「ありがとうございます。今後とも山田太郎さんと連携していきます!」

 ムキーッ! 
 なーにが連携していきますだ! なーにが20年来の友人だ!
 東大講師仲間だったからって調子に乗りやがって!
 民間時代からずーっと山田さんと連携してきたのは僕だっての!
 なんか炎上プロジェクトにことごとく突っ込まれたような気もするけど、いいように使われてた気もするけども! とにかく連携してきたの!!
 山田さんはなぁ、演説で応援弁士呼ばないんだぞ!  山田さんがなぁ、休憩するときは代わりに僕が演説するんだ。僕と山田さんは二人三脚なんだ!  それがなんだ、いかにも相棒は私ですみたいな顔しやがってチクショーッ!
「坂井さん、何怖い顔してるの」
 議員会館ツイッター画面を見ながらジェラシーに燃えていると、政策秘書の小山さんが話しかけてきた。
「え、僕、そんな怖い顔してましたか?」
「うん、般若みたいだった」
「般若……」
 僕はどっちかっていればおかめみたいな顔してると思うんだけどな……。
 とにかく、この議員のタイムラインと行動は監視せねば。山田さんに変な虫がつかないようにするのは公設第一秘書たる僕の仕事……いや、この坂井崇俊の使命なのだから。

 そんな風に胡散臭い議員のツイッター監査を欠かさなくなって数日後、山田さんが公設第一秘書たる僕に変わったミッションをよこしてきた。
「坂井、来週は私におにぎり作って」
「おにぎり……ですか?」
「うん。おにぎりアクションに使うから」
「はあ、わかりました」
 おにぎりアクションってなんだろう。
 しかし、人に聞かず黙ってググるのがデキる秘書というものだ。
 調べてみたところ、おにぎりを食べている写真を投稿することで、アフリカ・アジアの子どもたちに給食を届けることができるというキャンペーンらしい。
 ふーん、そういうのがあるのか。
 しかし、山田太郎公設第一秘書たる僕が作ったおにぎりで山田さんがそれを食べ、アフリカ・アジアの子どもたちに給食を届けるのは悪くないな、うん。
 ここは公設第一秘書、坂井崇俊、気合を入れておにぎりを作らなくてはなるまい。
 フフフ、山田さんは人の倍仕事をするけど、食事量も人の倍だからなぁ。選挙の時は自分用にパスタやお弁当を最低二つは買ってくるし、今も議員会館セブンイレブンから袋二つはぶら下げて帰ってきてそれペロリと食べちゃうし、部会で出てくるお弁当の量が足りないって文句言ってるし、党本部の食堂のカレーサラダ付きも2分18秒で完食しちゃうし、万世のコンボセットに必ず甘いナポリタンつけるし、とにかく食いしん坊だからなぁ。
 でもさすがにコンビニにも自民党カレーにもちょっと飽きちゃって、部会の合間に秘書のおにぎりが食べたくなったんだろう。もー、おにぎりアクションなんて理由つけなくてもそれくらい僕がつくってあげるのにかわいいなぁ。色んな具を入れていっぱい作ってあげなくちゃなぁ。週末はAFEE役員会の後に高級スーパーで買い物だな!
 次の週の水曜日、買い物袋を両手にぶら下げていつもよりだいぶ早く議員会館入りした僕は、事務所に鎮座している山田太郎に似せて作ったマスコットキャラ「表現まもる君」におはようと挨拶をすると、議員会館付属のキッチンでさっそくミッションにかかった。議員会館には給湯スペースがついていて、熱源さえ用意すればちょっとした料理ができるようになっている。農業政策が得意な議員なんかは支持者からもらったお米を炊いて事務所メンバーで食卓を囲んだりする。今日はちょっとその気分を味わうことにしよう。
 高級スーパーで勧められたゆめぴりかにたっぷり水を吸わせて三十分、炊飯器にかけた。ご飯を待つ間、ちょっと年金シミュレーションアプリの制作を進めて、炊飯器が鳴ったなら、輝く銀シャリをラップに盛り、これまた高級スーパーで仕入れた厳選の具を入れて、握っていく。
 〇年モノの梅干しに、一切れがいつもの三倍する塩シャケ、洒落た佃煮……どれも僕が食いしん坊山田太郎のために選りすぐったとびきりの具だ。公設第一秘書は議員の女房みたいなものだ。女房はおにぎりの具にも手は抜かないものだ。
 さて、有明産の海苔を巻いて仕上げだ。
「坂井、今日のおにぎりとっても美味しかったよ。最近食事がマンネリだったから新鮮だった」
 脳内のイマジナリー山田太郎がささやいて、僕はフフッと笑った。
 まぁ実際はそんなこと山田さんは言わないタイプだし、部会の合間に黙ってムシャムシャ食べるんだろうけど、それでも忙しい山田さんの一時に癒しになるなら僕はそれでいいんだ。
 朝七時、会議の前に山田さんが議員会館にやってきた。
「山田さん、おにぎり作っておきましたよ!」
 そう言って、炊飯器の米いっぱいを使って様々な具を入れたおにぎりが入った風呂敷包みを渡すと、
「お、ありがとう」
 と、言って山田さんはそれを受けとり、党本部で行われる部会に出かけていった。
 僕はそわそわしながら、お昼を待った。
 山田さんはいつおにぎりアクションをツイッターに投稿するんだろう?
 しかし、議員会館で仕事をしながら待っても待ってもツイッターの更新はない。今週のさんちゃんねるの告知はあったけど、おにぎりのアップはなかった。
 おかしいなぁ。食べるのに夢中でアップを忘れてしまったんだろうか?
 が、僕はこの直後、もはや日課になっていた某議員のツイッター監査を行ったことでとんでもないモノを見てしまうことになる。

 

 

 

 

 
 そこにはツーショットで映り、お互いのアーンと開けた口におにぎりを入れあう参議院議員参議院議員の姿があった。

 …………僕のおにぎり。
 僕が丹精込めてつくった公設第一秘書特製おにぎり。
 それが山田さんの手から。
 山田さんの手から、あの男にアーン。

 そして、あの男から、山田さんの口にもアーン。
 アーン。

 アーン、アーン、アーン…………。

 僕は目の前が真っ白になった。
 直後、参議院議員会館623号室のあたりから、恐ろしい獣の叫び、断末魔のような声が響いたらしい、と議員会館で仕事をする秘書達は語る。だが、それ以上の詳細はわかっていない。すべては永田町ではよくまれにあることとして葬り去られた。
 
「家出します。さがさないでください。」

 僕はそう書置きして応接室のテーブルに貼ると、参議院会館を飛び出した。

 


メープルシロップのご説明が必要でしょうか」
 スーツを着こなしたイケメンウェイターさんにそう聞かれて、はい、と答えた気がする。
 なぜ僕はこんなところにいるんだろう。
 そうか、議員会館から家出したんだっけ。
「右側から、ゴールデン、アンバー、ダークとなっております。右から軽い甘さになっておりまして、ダークが一番重いです。まずは軽いものから使ってみて、お好みに調整してください」
 三つのシロップの瓶をぼんやりと眺めながら、わかりました、と答えた気がする。
 説明が遅れたが、ここはホテルニューオータニのレストランだ。家出をしたら次にやることは決まっている。ヤケ食いだ。
「お待たせしました」
 ほどなくして運ばれてきたのは大きな黒いプレートに映える焼きたてパンケーキだった。ふんわりときつね色に焼きあがったパンケーキが二つ並んで、芳醇な香りが鼻孔を刺激した。真ん中には栗とクリームにマカロンを盛ったものがデコレーションされ、秋の味覚を演出している。ゴクリ。僕はのどを鳴らす。
 こ、これが噂に聞く官房長官パンケーキ(2800円税抜き)か……。
 僕は意を決してナイフとフォークを手にすると、右のパンケーキをフォークでおさえナイフを入れた。
 フワッという感触がナイフをつたってくる。
 ていうかなんだ「フワッ」って。包容力か?
 参議院議員によってなされたいともたやすく行われるえげつない行為によって傷付いた僕のハートを察しているっていうのか? 恐ろしいパンケーキだ。
 パンケーキの上でバターを滑らせ、黄金のメープルシロップをドロドロとかけ、恐る恐る口に入れる。
 パティシエの技の欠片。それは甘さと香ばしさと共に舌の上でとろけた。
 う、うまい……。
 僕はホテルニューオータニの甘味に身を委ねた。
 こりゃすごいな……そりゃあ官房長官が食べにくるわけだ。党本部から近いっていう地理的理由を差し引いたって、食べに来ちゃうわけだわ。身体も心も回復する。激務の政治家の回復手段としてのコスパがハンパない。
 うん、このマカロンめっちゃサクサク。栗もねっとりと甘くて美味。これ高いやつだ。高い栗の味がする……。
 あー、これ山田さんも絶対好きなやつだ……山田さん、さんちゃんねるやるたびに役職が増えてるし、回復手段としてもとてもよさそうだ。だいたいさ、党は山田さんに役職ホイホイ押し付けすぎなんだよ。いくら山田さんがめっちゃ仕事ができて無派閥で使いやすいからってさ。でも知財関係はウェルカムだなぁ。表現の自由的にはとっていかなきゃいけないポジションだし……。ああ、きっと山田さんが食べたら二皿くらいペロッといっちゃうかなぁ…………というか、なんか甘いモノ食べて回復したら腹立ってきたぞ。
 だいたい山田さんさぁ、簡単にアーンを許しすぎなんだよ。
 山田太郎へのアーン権っていうのはそんなに軽いモノじゃないだろ?
 2019年の選挙でさあ特に頑張ったも人に与えられた超特別な権利じゃんか! 山田さんの応援メンバー、リボンマークのモナーダの中でも数人にしか与えらえなかった権利なんだぞ!!!
 それをアーンって簡単に口開けちゃってさ、あまつさえ、僕が作った特製おにぎりを他の議員にアーンさせちゃうなんて、秘書心がわかってないよあの人は!!!
 そして、藤末健三ォ! 貴様というやつは!
 アーン権はなぁ、特別なんだ! それをあの男、同じ参議院議員であるのをいいことに、モナーダの鉄の掟を平然と踏み越えやがった! これが国会議員の職権濫用でなくてなんだと言うんだ! 絶対に許さん!
「こうして! こうして! こうだ!!!」
 僕は残ったパンケーキを切り刻みながら、ダークのメープルシロップをかけた。そして一気に二、三切れを口の中に押し込んだ。
 ああ、僕の味方は官房長官パンケーキだけだ。
 それなのに、もうパンケーキは尽きようとしている。世は無常だ。追加でお酒頼もう。メニューメニュー、っと。
 僕はパンケーキを頼むときに開いたメニューを再び開いた。が、それは僕の手から離れて、上にいってしまった。
「坂井」
 そして、そこには僕の手からメニューを取り上げた蝶ネクタイの男、事務所のボスの姿があったのだった。
「山田さん……」
 僕は驚いて、そして気まずくなって視線を落とした。
「坂井、今アルコール頼もうとしてたでしょ。だめだよ、今日はさんちゃんねるなんだから、さ、議員会館に戻るよ」
「……いやです」
「坂井、聞き分けの悪いこと言わないの」
「山田さん…………僕が今何を言いたいかわかりますか」
 山田さんの秘書心のわからなさ、しかし的確な探索能力……この人はあべこべだ。めちゃくちゃできるのに時に驚くほど人の心に鈍感だ。この人は民間時代からこうだ。一気に色んな感情が押し寄せてきて、僕は泣きそうになりながら、キッと山田さんを見て言った。
 ふーっと山田さんが溜息をついた。
「もー、しょうがないな、うちの秘書は」
 そう言うと山田さんは僕の隣にどずんと座って、メニューを開いた。
「私にもパンケーキください。あ、二皿ね。え、シロップの説明? それは大丈夫」
 と、ウェイターにオーダーを伝えた。
「……というか、よくここがわかりましたね」
 やっぱり二皿頼むんだ……。予想的中に僕は半ば呆れながら言った。
「坂井さ、わかりやすいんだよ。家出とか書いてたけどどうせ遠くには行かないと思ってた。そういう奴だよね、坂井は」
「そうですかね……」
「だいたいさ、議員会館を出ていくのに家出ってなんだよ。日本語がおかしいじゃん」
「そこはあれですよ、表現の自由です」
「いやでも、おかしいじゃん」
「いいんです、表現は自由です!」
 ほどなくしてパンケーキ二人前が運ばれてきた。
 山田さんの目の前に焼きたてのパンケーキが二皿並ぶ。
 これはひどい、人の倍働いているとはいえものすごい腹ペコ議員の絵面じゃんこれ。
 だが、山田さんはパンケーキをじーっと見つめたまま動かない。
「山田さん、食べないんですか?」
 パンケーキの上で溶けていくバターを見ながら僕は言った。
「坂井、私が今何考えてるかわかる?」
「えっ」
「公設第一秘書なんだからわかるよね」
 なんだ、この人は。僕に対する意趣返しのつもりなのか。意地悪だな。
「いやさ、坂井を探し回って疲れちゃってさ、今指一本だって動かしたくないの。口だけしか動かしたくない」
「……あー、そういうことですか」
 僕は皿の一つを自分のほうに引き寄せると、ダークのメープルシロップをどばっとかけた。そして大きく切り分けると、山田さんの顔の前に突き出した。
「さぁ山田さん、アーンしてください。大きさに文句は言わせません。一口でいってくださいよ。山田さんならなんとかなるでしょ」
 蝶ネクタイの参議院議員がアーンと口をあける。僕はパンケーキをぎゅうぎゅうと押し込んだ。


     ◇


「……というわけで、山田太郎議員と坂井秘書はホテルニューオータニのコーヒーショップSATSUKIで官房長官の御用達パンケーキをアーンしあってました。山田太郎さん二皿も頼むし、坂井さんカッコウの雛にご飯運ぶ小鳥みたいだったし、見せつけられるわ、パンケーキはうまそうだわで本当にひどい飯テロでした」
 僕は坂田。藤末健三事務所の秘書だ。
 昨日は大変だった。山田太郎議員がうちの議員会館に、坂井を見ませんでしたかと血相を変えてやってきたからだ。
 もちろん藤末さんは全面協力を指示してきた。なので国会図書館の地下書庫から、国立劇場赤坂見附前の釣り堀まで、我が事務所スタッフは坂井秘書を探したわけだけれど。
 議員秘書の捜索って、議員秘書の仕事だっけ? まぁ議員秘書ってなんでもやるけどさ。
 藤末議員は僕の報告をうんうんと目に皺を寄せながら聞いていた。
「ちなみに今の時期は栗がトッピングされてまして。冬季は福岡あまおうになるそうですよ」
 めっちゃ食べたかったので僕は九州情報もプッシュするのを忘れなかった。
「なるほどですねぇ。議員が秘書との親睦を深めるには官房長官パンケーキがいいんですね。さすが山田さんです! 近いですし、今度うちの事務所でも行きましょう!」
 と藤末さんは言った。
「本当ですか。僕も官房長官パンケーキ食べたいです! でもアーンはやめてください。自分で食べるので」
 僕はあらかじめ牽制しておいた。
 まったく、この先生は山田太郎議員好きすぎだろう。
 今後も暴走しないように僕が見ていないとな。

 

 おしまい

 

#坂井崇俊  #山田太郎  #藤末健三
#ごめんなさい


この小説は藤末議員のツイート以外はだいたい私の妄想であり創作です。が、一部関係者の周りをちょろちょろして得た情報を使わせていただいております。

 

参考:

おにぎりアクション2020 - おにぎりで世界を変える

聖地「アキバ」で懐かしの味 | 永田町・霞が関のサラめし | NHK政治マガジン

SATSUKI | レストラン&バー | ホテルニューオータニ(東京)