017のネタ帳

ポケモン二次創作ネタとか。

藤末健三、コスプレをする

コミケでコスプレをしようと思います」
 ある午後の昼下がり、爽やかな笑顔で藤末さんが言って、千代田区にある参議院議員会館1009号室、藤末健三事務所は騒然となった。
「何考えてるんですか!」
 僕は坂田。藤末さんの秘書を務めている。こんな時、議員の暴走を止めるのも秘書の仕事だ。
「いやほら、せっかくAFEEのコミケ街宣出るんだし、ついでだから身体的な表現の自由も学ぼうと思って!」
「ちょっと待ってください」
「どんなコスプレがいいと思いますか?」
「うわぁ、秘書の制止を聞かないよ! この事務所のボス!」
「ほらやっぱ元祖ツイッター議員としてはさ、山田太郎さんに負けていられないと思うんですよ。ここは坂田さんに写真をとってもらってツイッターで大いにバズらさた一気にフォロワー数を一万人くらい増やしたいよなあって」
「そう簡単にいきますかねえ…」
 僕はいかにもやめたほうがいいオーラを出してそう言った。
いや、気持ちはわからないでもない。やはり政治家なので顔は売らないといけない。政党名というより名前を書いてもらって当選する全国比例ならなおさらだ。
 しかし、オタクは気難しい。へたに媚を売られたと思うと警戒するのがオタクだし、インターネットで怒られだって発生する。ここは慎重に検討を重ねて…。
 と、思っていたら藤末さんが何やらポーズをとりはじめたではないか。
「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」
 あ、これは知ってる。鬼滅の刃だ。主人公の有名な台詞である。藤末さん竈門炭治郎のコスプレがやりたいのか。
って、ちょっとまて。
「藤末さん、長男じゃないでしょ!!!」
「バレましたか……」
「お兄さんいるって公式サイトのインタビューにありましたよね!?」
「よくご存知で」
「そりゃ秘書ですから! 本当、お兄さんとちがってやんちゃですよね!!!」
「ははは、面目ないです」
 そういうとポーズを解いた藤末さんは次の候補を考え始めた。そして、少しすると
「やっぱり竈門禰豆子さんとかがいいのではないでしょうか?」
 と、言った。
 って鬼滅から離れないのかよ!
「いや、あなた男でしょ!」
 しかもいい歳のおっさんじゃないですか!
 と、僕はツッコミを入れた。
「いやいや、コスプレに年齢や性別は関係ありませんよ。過去に艦娘さんとかの男性コスプレがあることはリサーチ済みです。現場主義なので。それに最近はギャップ萌えや男の娘という言葉も……」
「だいたい藤末さん、禰豆子みたいに身長縮められないでしょう!絶対箱に収まらない!」
「だめですかね……推しは禰豆子さんなんですけど、身長が縮められないのではしかたありませんね……」
「わかってくれたなら幸いです!」
 あっ慎重に検討はしないけど、身長の壁は諦めるんだ…と思いながら僕は言った。
 というか、自身の身長を縮められる人間なんていないし、それこそ鬼くらいしかいないと思うけど、そこは黙っておこう。
「それなら伊之助さんはどうでしょう。ボクシングで鍛えた身体を見せるにもちょうどいいと思うんです!」
 ファイティングポーズをとって藤末さんは言った。藤末さんはボクシングのプロライセンス持ちである。
「顔が見えないからダメです! 政治家は顔を売ってナンボです!」
 と、僕は言った。本当はイノシシの頭を作るのがめんどくさいからなのはナイショである。
「仕方ありませんね。それでは無惨様はどうでしょう?」
「いや、やめておきましょう、選挙で1800の肉片に四散しそうで縁起が悪いし、ついでに1500くらい撃ち落とされそうで……。それに」
「それに?」
パワハラ政治家事務所だと思われるのはまずいですよ……うちの事務所のイメージ的に」
 説明しよう。鬼滅の刃のラスボスこと我らが鬼舞辻無惨様は自身のこと部下の十二鬼月を詰問した後、五体も殺して、一番十二鬼月を屠った男、鬼柱と呼ばれているのだ!
 そういえば、最近どっかの政治家が秘書に暴行して辞めたりしてるよね! 議員の皆さん! 秘書は大切にしましょうね!!
「うーん…難しいですねえ…」
 顎に手をあてて藤末さんは言った。しかしあくまでコスプレは諦めていないらしい。
「ここは意表をついて、蟲柱の胡蝶忍さんとか……蝶の舞、戯れ」
「やめてください! 絶対だめ!!! ツイッターのフォロワー減りますよ!? せめて岩柱の悲鳴嶼さんとかにしてください!! いや、あのキャラ南無阿弥陀仏だから宗派が違う!  推薦団体的に! 今のはなしでお願いします! うん、いい加減鬼滅から離れましょう!」
 推薦団体に微妙に忖度しながら僕は秘書らしく提案した。
「そうだ!  何かこう、国会議員ぽいものにしましょう!」
 そう、何もコスプレは鬼滅だけじゃない。とにかくコミケのコスプレはカオスである。過去にはニイミ食器のコスプレ、株価のグラフのコスプレやポケモンGOポケストップのコスプレもコミケにはあったのだ。
 ならば国会議員らしい奇抜さを狙っても良いはずだ。
「うーん、民主くん?」
「離党したところのマスコットキャラはやめたほうが……」
「じゃあ国民うさぎさんにしましょうか」
「玉木代表は許してくれる気がする!! でも他が許してくれない気がします!!!」
「ですよねえ…じゃあ国会議事堂のコスプレとか…」
「国会を私物化してるとか言われそう!」
「ムー!」
「禰豆子から離れて!」
「ムムー!」
「ムを増やしてもだめです!」
「ムムムう、しかしそうなるとも禰豆子さんの入ってる箱くらいしか…」
 ムをもう一個増やして、藤末さんはムムムム、と唸り始めた。というか、なんで鬼滅とハコモノに限定するんですかー!? ムー。
「いやいや、さっき入らないって言ったじゃないですか。藤末さんが入ったら、どんだけ大っきい箱なんですか!それに国会議員なら顔も出さなきゃいけないし…箱に入って、顔だしたら、ネズコというよりもう、シャイニングですよ!扉から顔出すやつ!ジャックニコルソンですよ!!?」
 僕は怒涛のツッコミを入れた。しかしこれも秘書の務めである。今度はジャックニコルソンかぁ……ん?
「そ、それだぁーーー!」
 僕は隣の議員会館に響きそうな声で叫んだ。突撃!隣の議員会館
「それだ、それですよ藤末さん! シャイニングふじすえ!それでいきましょう! シャイニングふじすえ! シャイニング!!!」
「シャイニングふじすえですかぁ……シャイニング……いいですね!」
 藤末さんはその響きが気に入ったらしい。目尻に三本皺を寄せてニコニコ笑うとシャイニング……シャイニングふじすえ……シャイニングふじすえ……と言いながら、上機嫌に部屋を出て行った。
 よし、少なくともこれならツイッターでは叩かれにくそうだ。僕は胸を撫で下ろした。議員の危機管理は秘書の仕事である。
「ところで坂田さん」
 やりとりをずっと見ていた秘書仲間の星井さんが声をかけてきた。
「たしかシャイニングのあのシーンって、ジャックニコルソンが妻と息子の命を狙って斧でドア割って覗くとこだけど、大丈夫かな」
「…………」
「大丈夫!今は無惨様のパワハラ会議のほうがホットだから!」
 僕は適当に誤魔化した。
 まぁあのシーン、もはやネタと化してるし大丈夫だと思う!!

 コミケの日がきた。
 藤末事務所で持ち運びも便利なように工夫して工作した破れたドアから顔を出して、満面の笑顔を浮かべる藤末さんはツイッター民にそこそこウケた。
「国会議員なにしてんのwww」というコメントをさっそく見つけた藤末さんはニコニコ@を飛ばして返信をひている。満足そうだった。が、さすがにコミケ街宣の街宣車に上げるのは全力で止めた。
 代わりに山田太郎さんにあやかって蝶ネクタイを渡しておいた。
 街宣車の上で嬉々と演説する藤末さん。やはり、国会議員の本分はこれだなぁと僕は思う。

 

 その後、ツイッター上でコミケ街宣やコミケでの山田太郎議員に言及したアカウントの間では、藤末健三という胡散臭い国会議員にフォローされたという報告が相次いだらしいが、それはまた別の話である。

 

おしまい

 

 

#藤末健三 #ごめんなさい

このお話はフィクションですが、2019年のコミケで藤末議員が蝶ネクタイをつけて街宣していたこと、私が胡散臭い議員にフォローされたのはノンフィクションです

 

参考:

参議院議員 ふじすえ健三 公式webサイト