017のネタ帳

ポケモン二次創作ネタとか。

祖父の友人の話

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  これは僕の祖父が話してくれた事だ。

 昔この島には学校に行ってない子がいた。彼とは船着場や海岸で会った。親はおらず、シャワーズの乳で育ち、魚をとって、時にブースターに焼いて貰って命を繋いでいた。空が赤くなりだすとその姿が変容していき、日が落ちると完全にシャワーズになったという。

 いわゆる「あいのこ」というやつだ。何かの間違いで島の男がシャワーズと契り、そしてシャワーズが産み落としたんだろう、という話だった。人とポケモンの「あいのこ」はまったく人間の見た目であることもあれば、ポケモン的な形質を有している場合もある。彼の場合は時間帯で違ったらしい。人間の姿でいるのはおおよそ正午から日没くらいだったそうだ。

 彼は「あいのこ」だけあって人間の姿でも泳ぎがうまかった。よく祖父と遠泳にいった。泳ぐ速度は島の誰より早く、一度も勝った事はなかった。よく隣の小さな島に渡ったという。島には物干しざおが一式あって、彼の衣服はそこに干されていた。その多くは祖父が譲ったお古だった。

 彼は異端だった。島の住人のほとんどは彼をいないものとして扱っていた。交流があったのは一部の漁師と若い日の祖父くらいだったようだ。壮麗な神輿が出て島を練り歩くハレの日も彼は海からさみしそうにその様子を眺めていたそうだ。

 たぶん祖父はその姿に自身を重ねたのだろう。考えてみれば学校が終わると彼と遊んでいた祖父自身も仲間外れにされた子供だったのだ。

 ただそれでも、祖父は島の人間であった。祖父には帰る家があり、人間の学校に通った。次第に相応な振る舞いが出来るようになったし、歳を重ねるごとに島の社会の理の中に溶け込んでいった。決められた年齢になれば祭りの準備も手伝った。

 ある年の祭りの日、祖父が出店の食べ物を持って行った。その時に祭りの灯りを見つめながら彼がたどたどしい言葉で、こんな半端な体はいやだからもうずっとシャワーズでいたい、というような事を話したのが忘れられないそうだ。

 そうしてある夏の日、巨大な台風が島を襲って家がたくさん浸水して、船もたくさん流された。台風が去った日を境に島で彼を見かけることはなくなった。海岸にはたくさんの青い石が打ち上げられていた。たぶん、彼は望みを叶えたんだ、と祖父は言った。

 けれど、人間だった彼をいなかった事にはしたくない、と時々人に語って聞かせるのだという。