017のネタ帳

ポケモン二次創作ネタとか。

ナゲツケサルとヤレユータンの民俗学

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 昔、アローラのナゲツケサル達は今よりももっと遠くに物を投げることができた。誰がより遠くにものを投げることがてきるか、いつも競っていたんだ。ただあんまり物を投げるせいで、島にあるものがどんどん減っていった。これは大変だとカプは遠くに投げる力を奪ってしまったんだ。
 で、その投げ過ぎたものが今どうなっているかっていうとね、それは夜になると見えるんだ。
 ほら、夜空に星が輝いてるだろ?
 あれはかつてナゲツケサル達が投げたきのみとか石とか貝殻なんだよ。

 これはアローラに伝わるナゲツケサルの昔話で、昔から投げるという行為に人々が着目してきたことを示している。

 また、人間に飼われているナゲツケサルは野球などの球技観戦を好むことでも知られる。ピッチャーの投げっぷり、外野手の遠投を見て興奮して喜ぶ。とある球団のスカウトは素質のある無名新人を掘り出す為、ナゲツケサルを連れて行くという。
「彼はナゲツケサルが見出しました。他の選手と明らかに反応が違いました」
 さる有名チームで大型新人の発掘に成功したスカウトは語っている。

 また、別球団はヤレユータンの采配を頼りにしている。トレードや移籍などで適切な人材を確保するためである。
「いつも監督の隣に座らせて、試合を見せていますよ。他球団の試合もよく見せます。そうするとチームにはどんな補強が必要か見抜いてくれるのです」
 球団の信頼は厚いようだ。

 そしてこれは余談だが、同人作家である筆者の友人は即売会での同人誌頒布数をヤレユータンの采配によって決めているらしい。
「頒布数を紙に書いて、選んで貰うんだけど、試しに10、50、100、300で選ばせたら、扇子で10を差しやがったのでキレそうになった」
 と、友人は語った。
 彼は意地から50冊用意したが、即売会後に40冊余ってまたキレそうになったそうだ。

 このようにヤレユータンは采配に優れたポケモンであり、アローラでは自然豊かなポニ島のしまキングは長い間ヤレユータンだったという伝説が残っているほどだ。元はしまキングのポケモンだったが、しまキングの死の際にそのポケモンたちを引き継いだのはヤレユータンだった。彼を下し、人間のしまキングに就任すべくナゲツケザルと挑んだとい人間の物語が伝えられている。
 また、アローラの森で平穏にポケモンゲットするためにはヤレユータンに手土産を持っていくと良いとも云う。美しい鳥ポケモンの羽を持っていくと、扇の材料として喜ばれるというのだ。特にピジョンの尾羽などは大きく色も美しい為、非常に喜ぶのでトレーナーは換羽の際は拾っておくと良いだろう。

 そしてヤレユータンナゲツケサル、彼らの同時活躍の例としては、こんなものがある。

 とあるアローラ社会人野球チームは長い間、低迷が続いていたが、ある選手が持っていたヤレユータンの采配に従ったところ、勝率が急上昇。ナゲツケサルのコーチもつけてついにリーグ優勝を果たし、胴上げにはヤレユータンナゲツケサルが空を舞ったという。

 また、アローラのある部族では婚姻の采配をヤレユータンに委ねている。その采配は非常に見事で、離婚率は一般的なアローラの社会の平均を下回るという。ただ、采配により稀にポケモンと結婚させられる。
 またある部族では年頃の若い男女を集め、ナゲツケサルの群れに囲わせ、様々な木の実をなげつけさせる。木の実は果汁の色が濃いものが選ばれ、同じ色に染まった男女が結ばれる。ただし、どうしてもいやなら相手に木の実をなげつけて拒否してもよいという。

バクダンボールの民俗学

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 ビリリダマ
 バクダンボールとも云われるこのポケモンが現れたのは現在の赤と白のデザインで知られるモンスターボールが大量に出回って以降であるという説がある。それはたとえば下記のような都市伝説としても語られる。

 モンスターボールを長く使わないまま放置していると、中に魂が宿ってビリリダマになる。ある主婦が押入れを整理していたら、旦那の八つ揃わなかったバッジのケースや釣竿と一緒に小さなビリリダマが何匹か転がり出てきて腰を抜かした。
 と、いう具合である。

 また下記は、がっこうのこわいうわさばなし(中学館)に掲載されたものである。

 そういえば昔な、いじめられっこの少年がいてな、学校に行くのが嫌で嫌で仕方なった。いつもボールを見つめながら「ああ、ポケモンはいいなぁ。ボールの中に隠れられて。僕もずっとボールの中に入っていたい」と言っていた。
 それから数日後のことだよ。少年がいなくなったのは。
 総出で探したけど見つからなくて、代わりに草むらの中から皆が見たことのないポケモンが見つかった。モンスターボールに似ているけど、明らかに大きさが違うし、目がついている。そのポケモンはいまではビリリダマと呼ばれているそうだ。
 ……少年の行方は未だにわからないんだって。

 モンスターボールに宿る魂には諸説あり、死んだポケモンであるとか、旅を終えたトレーナーやポケモンたちの未練である、とも説明されている。使わないボールはビリリダマにならないように引き取って供養する神社もある。未練を抜いた後は近所の子供達に配っているという。

 ビリリダマは刺激によって自爆する危険なポケモンとしても知られているが、あるいは夢や未練がせめて華々しく爆発することを選んだのだ、という風に考えるとまた見方も違ってくる。
 ならば進化系のマルマインは夢や未練をこじらせた果てであろうか。だとすれば、ポケモンリーグの舞台や大きなコンテストの大会で派手に大爆発するマルマインは、あるいは届かなかった思いの塊が長き放浪の末、ついに願いを遂げたのだと考えることができるかもしれない。

 

ウパーとヌオーの民俗学

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●ウパー

「電気技が効かなくて焦った」
ピカチュウがやられてトラウマになった」
 かつてトレーナーとして旅立ったお父さん達に「初見殺し」して語られることが多いのがウパーである。我が子の報告も楽しみにしているが、最近の子はスマホアプリで調べて対策しているのだった。
尚、ウソッキーも同じ部類に入るのだが、最近の子はやはりスマホアプリで……(以下略)
 尚、ウパーのことを昔の名前で「かわっぱ」「水童」「沼太郎」「沼稚児」などといい、神様に捧げられた子供がウパーになるのだという昔話も残されている。
 また、別の話ではこうある。ある子供が大木の下で雨宿りをしていたら雷が落ちて死んでしまった。子供はあの世で「おらぁ、遊び足りねぇ。雨が降っても遊んでいてぇ。雷ば落ちても死なねぇ身体になりてぇ」といったので、来世ではウパーになったのだという。
 夜の草むらはかわっぱの遊び場になるので、日が暮れる前に帰りなさいというような言い回しが一部地域に残っている。

 

●ヌオー 

 水底でじっとしている事が多く、たまに台風などで川が荒れると巨大個体現れて話題になることがある。そのような個体が、都会の公園や神社の池から見つかって騒ぎになったこともあり、奉っている神社の池から頭に苔を生やした主が顔を出した際は「ハンザキ大明神出現 十年ぶり」などと銘打って祭を催し供物を捧げるなどすることもあるという。

 昔話にも池や沼、淵の主として巨大ヌオーが語られる事例は多く、雨を降らせたり、化け物じみたものだと池ごと周囲にいる生き物を飲み込むなどしている。またカビゴンばりに道を塞いでいたとか、巨体と特性の貯水で川の水をせき止めてしまい農民が困ったというものがある。
 電気の攻撃が通らない水ポケモンとしてよく知られ、貯水の特性から同属性のポケモンにも強いため、攻撃が通りにくくタフな化け物である、という記述が多い。大昔の英雄はわざとヌオーに飲み込まれて、腹を割いて内から真っ二つしてやっと倒した、あるいは二つに分かれても生きており、東西に去っていったという記述があり、ハンザキ大明神という呼び名はこのあたりからきているようだ。

 その分類はぬまうおだが、地上二足歩行が可能なので擬人化して見られることも多かった。ある地域では橋を作るために人柱になった人間が川の神から穏やかな余生を与えられたのだと考えた。ある地域ではなまけものの末路だと考えられた。そこには悩みなく過ごしたいといった願望の反映もあったようだ。

エアームドの民俗学

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 戦国時代、合戦の後は死人の身ぐるみをはぐ絶好の稼ぎ場であったが「鬼が出る」と言って人々は戒めた。ある村の言い伝えによれば合戦後に身ぐるみをはぎにいった野盗が見たのはオニドリル達が自らの羽の一枚に加えるように刀を剥ぎ取る場面であった。
 オニドリルは丹念に刀を集めては自身の翼の間に挟みこんだ。そして刀を集めるだけ集めて飛びだった時には、その姿はエアームドになっていたという。
 刀には死者の怨念が宿っているから彼らに見つかると首をはねられると云われる。
 
 こんな話もある。とある国で謀反の企てがあった。その企みをたまたま聞いていたオニドリルは城の武器庫に入ると、刀や槍の刃をすべて自らの翼に刺し、ごっそりと持ち出してしまった。オニドリルエアームドとなってどこかへ飛び去り、結果謀反は失敗に終わったという。

 また、暇な甲冑職人が戯れに金属を使ってオニドリルの自在置物で制作したものをゴーストが欲しがって、置物に取り憑いて飛び去ったからだとか、大名がオニドリルのために特製の甲冑を注文して着せたところ脱げなくなってしまってエアームドになったのだという話もある。

 そして源義経がらみの伝説では、エアームド武蔵坊弁慶の化身であるという。帯刀している者に勝負を挑んでは刀を集めていた弁慶はその死後にエアームドとなって飛び立ったというのだ。義経エアームドに乗って海を越え、大陸に渡り、チンギスハーンとなって帝国を築いたともいう。

焚火とナイフ

 時折ぱちぱちと爆ぜる焚火は青年が手に握るモモンを橙に照らしている。藍色の空にはとうに月が昇り、昼間は青く燃えていた山々は黒い輪郭が見えるのみであった。
「うまいもんだねえ」
 橙に燃える焚火の向こう側、煙が向かう方向で山男が言った。
 煙男。焚火を囲うとなぜか煙に好かれ、煙を引き寄せてしまう者がいるもだが、彼はまさに煙男であった。
 青年は左手でモモンの実を回す。右手に持つナイフはその薄い皮を途切れることなくはぎとってゆく。
「トレーナーになってさ、ナイフの扱いはだいぶうまくなったつもりだけど、未だに皮むきだけはだめなんだ」
 そのように漏らす山男は焚火の上でことことと音を立てるコッフェルの中身をかき混ぜる。三徳の上に置かれ、下から炎にあぶられたコッフェルが湯気を吐き出す。あたりにはマトマ特有の食欲をかき立てる匂いが漂っていた。
 野山を旅していると前に通った者の痕跡を見つける事がある。特に竈の跡はその主たる例で、通ったトレーナーがまた同じ場所で焚火をしていくうちにそこは決まったポイントになる。だから時としてそんなポイントでトレーナー同士が鉢合わせになることもよくある事だった。そんな時、決まって彼らは食べ物を出し合い、会話に花を咲かせ、一時の邂逅を楽しむのである。
コンソメをありがとう。切らしてて参ってたんだ」
 山男がそう言うと、いえ、ご馳走になりますから、と青年が答えた。
 モモンの皮をむき終わった青年はそれを半分に割ると中の大きい種を取り出した。実を一切れ切り出して、肩で羽毛を膨らませる小さな鳥ポケモンに差し出した。ぱっと素早い動きで鳥ポケモンがそれをついばんだかと思うと、もう切れ端は青年の指先から姿を消していた。緑色の玉ようなそのポケモンはその一切れで満足したらしく目を細めてまどろみ始める。
 青年は残りのモモンもう何分割かして、湯気を吐き出すコッフェルにそっと入れた。山男がそれをおたまで押し潰し、更にかき混ぜる。マトマはとても辛い。だからこうして他の木の実を入れ、味を整えるのがスープ作りのコツなのである。
 青年は刃についた汁を拭き取ると鞘に入れ、リュックのポケットに収納した。
「そういえば君のナイフは何由来なの?」
 相変わらずコッフェルをかき混ぜながら山男が尋ねてきて、
エアームドだと聞いています」
 と、青年は答えた。
 それは九歳の時に父親から買い与えられたナイフだった。まだ早いだろうと母は言ったが、十歳になれば旅立つ子もいるんだから、今から人並みに使えるようにしておかなければ恥ずかしい、と父は譲らなかった。将来学者になるにしろ、トレーナーになるにしろ、ナイフの扱いは必要な技術だから、と。
 トレーナーズショップでナイフを購入したその日、父子は近くの河原での野宿を敢行した。そうして彼らは木の実の皮をむいた。父の持つナイフの刃先からするすると長細い皮が下に伸びるのが少年には不思議だった。ほとんど形の同じナイフを使っているというのに彼の手からはたっぷりと果実を残した皮の破片がこぼれ落ちるばかりであったからだ。
 換羽した鎧鳥が落した羽。それを熱し、打って作ったナイフ。父と自分でこんなに差が出るのは落とし主のエアームドのレベルが違うからではないか。かつての少年は幼心にそんな事を考えたものだ。
「俺のナイフはね、元はハガネールの一部だった」
 ベルトに装着したナイフを引き抜くと山男は語った。ぱちっと焚火が爆ぜる。男の両手の上のナイフを橙に照らしている。
 サバイバルナイフ。それは父がトレーナーとして旅立つ子に贈るプレゼントの定番だ。野外での料理、竈や寝床を作るための木材の加工、時には野生ポケモンから身を守る道具として。ナイフは旅するトレーナーに欠かせないアイテムの一つである。
 特に鋼ポケモンを構成する鉄から作ったナイフは値こそ張るものの、錆びにくく、手入れも簡単だと言われ根強い人気がある。
 そして何より、人々はポケモンの生命力をナイフに投影しているのである。換羽したエアームドの羽、親の相棒だった今は亡きボスゴドラの角、あるいはクチートの牙。人々はもとは生きていた何かにある種の神性を見出すのだ。
 “ナイフとは七匹目の手持ちである”
 世界の名だたる山を制覇した偉大なレンジャーが愛用のナイフをそう称したのは有名だ。
 青年のそれより一回り大きい山男のナイフは折り畳み式である。持ち手と刃の間にあり、折り畳み時の回転軸でもある丸いピポットピンは青い光沢のある素材で出来ていて、洒落ているなと青年は思った。
「俺の出身はシンオウでね、鋼鉄島というところにハガネールの生息する洞窟があるんだ。ハガネールが通るとまれに突起の一部が欠ける事があって、ハガネールのおとしもの、という。それを拾った曾祖父がナイフに加工したんだ」
 以来、メンテナンスと改造とを繰り返しながら子から子へとナイフは受け継がれてきたのだと山男は語った。
 焚火が躍る。山男は手の中でくるりとナイフを回転させた。軍手をしたごつく大きな手がナイフの持ち手を握る。山男は何とも愛おしそうにナイフを見つめる。
「曾祖父の顔なんて見たこともないし、祖父も俺が旅立って二、三年で死んじまった。だがこいつは未だに現役ってわけよ」
 やがて山男は焚火からコッフェルを下ろし、地面に置いた。中の半分を小さなコッフェルに移し替えると、立ち上がり、熱いから気をつけてな、と青年の足元に置いた。
 いただきます、と青年は応え、コッフェルの熱さを指先でつつきながら確認し、持ち上げる。肩で丸まる緑の小鳥――ネイティを落とさないよう気を付けながら、彼は赤いスープを啜った。辛いマトマのスープがみるみる身体を温めていく。コッフェルから口を離して、ふうっと息を吹くと白かった。暦の上ではもう春だとはいえ、まだまだ夜は冷える。緑玉は結局肩からずり落ちてきた。受け止めて、膝の上に下ろしてやる。
 焚火の煙は相変わらず山男が好きらしく、ずっと彼にまとわりつき、離そうとしなかった。当の本人の顔は少しすすけていたが、もう慣れっこなのだろう。気にするでもなく手元のナイフを眺めている。
「……これは俺が駆け出し頃の話なんだが」
 山男はぼそりと語り始めた。
シンオウも飽きたんでジョウトを旅してた時期があった。そこで運悪く穴持たずのリングマに出くわしてしまった事があってね」
 穴持たず。それは冬でも冬眠せずに動き回るリングマの事である。身体が大きすぎて、良い冬眠場所がないとか、秋に十分食べられなかったとか、考えられる理由はいくつかあるのだが、よく言われるのは冬に食糧を得なければいけない彼らはえてして凶暴で、力も強い事であった。
「手持ちポケモンはみんなやられた。これ以上戦ったら死んでしまうくらいの重傷を負って、もはや出す事も叶わなかった。その時に助けてくれたのがこいつだよ」
 山男は折り畳んだでいたナイフの刃を引き、刀身を見せた。青いピポットピンが回ってカチリと鳴る。彼の膝の上に突き立てるように見せられたナイフが焚火の橙に照らされた。
 一本のナイフ。野外での料理、木材の加工、時には野生のポケモンから身を守る手段として――。青年は脳裏にリングマに立ち向かう体格のいい男の姿を浮かべた。九死に一生、火事場の馬鹿力。男はナイフワークをもってしてリングマを退けたのだと。ポケモンより強いトレーナーはごくたまにだが存在する。
 だが、山男が語ったその先は青年の予想とはだいぶ違っていた。
「刺し違える覚悟で俺はこいつを手にとった。だが、俺がリングマに突撃する前に、勝手にこいつが手から抜けて、穴持たずの目を刺しやがったんだ」
 青年は一瞬、その意味を理解する事が出来なかった。男が投げるでもなく、ナイフがひとりでに手から抜けてリングマを刺したというのだろうか。
 だが、男の持つナイフの丸く青いピポットピンがぱちぱちと瞬きをしたその瞬間、その意味を瞬時にして理解した。
ヒトツキ……ですか」
 青年は声を上げた。
 青いそれはもはやピポットピンではなかった。それはポケモンの眼であった
「お、珍しいな。めったに起きないのに」
 山男もまた声を上げた。
 ヒトツキ、刀剣ポケモン。海の向こうのカロスではよく知られるゴーストポケモンだ。その姿は西洋の騎士が持つ剣の形が一般的だが、ごく稀に槍の形をしたものや、レイピア、日本刀などの形をしたものもいるという。
付喪神……」
 青年はそんな単語を呟いた。
 百年を経た道具には魂が宿るという。ヤジロン、コイル、ビリリダマ、チリーンといった付喪神的なポケモンはたくさんいるが、青年の知る限り彼らの多くはタマゴから生まれている。生粋の付喪神としてのポケモンに出会う事はめったにないし、そういう存在を認めない学者も多い。彼らがポケモンである事はボールを使えば証明できるが、モノからポケモンへ変化したと証明するのは難しいからだ。
 二人のやや興奮した挙動を察知したのか、寝息を立てていたネイティが目を覚ました。山男の手の中のヒトツキがふよふよと浮遊しながらこちらとの距離を測っているのを見て、赤いアンテナのような冠羽をピンと立てた。
「穴持たずに出くわしたその年が百年目だったんですかね」
 青年は山男の「ナイフ」を見据え、言った。
「さあ、九十年くらいだったんじゃないか。案外いい加減なものだと思うよ。それこそのっぴきならぬ状況だったから、仕方なく、じゃないのかな。こいつ普段は寝てるんだ。ほとんどナイフに徹してるんだよ」
 今夜はどうしたんだろうな。
 不思議そうに山男が言った。青年はただ曖昧な笑みを浮かべるだけであった。彼はピンと冠羽を立てるネイティをなだめるように撫でる。そうしているうちに緑玉はまたうとうととし始め、合わせるようにしてヒトツキも刃を回転させて持ち手に納めたのだった。それでもしばらくは青い眼が見つめていたが、途端に瞳がすうっと消え、元のピポットピンに戻ってしまった。
「ナイフは七匹目の手持ち、か」
 青年はその言葉を今、実感を持って呟いていた。
 藍色の空の下、橙に燃える焚火が二人のトレーナーを照らしている。そこから生まれる煙は相変わらず山男にまとわりついている。炎はぱちぱちと音を立て、念鳥を撫でる青年の影を揺らしていた。

 

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23時 カフェスペースにて

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……いらっしゃい お客さん アローラは いま 23時

くつろぎの ひとときを 提供する ポケモンセンター カフェスペースだよ
さてと お客さん どうしますか?

グランブルマウンテンは 198円だね
飲んでいくかい?

わかりました しばし お待ちを……

お待たせ グランブルマウンテン だよ

遠い 地方から 取り寄せた 豆を ブレンドしているんだ
一味 どころか 二味 三味も 違う……
もしかしたら グランブルマウンテンと いえないかも しれないけどね

……ところで お客さん
ポケマメ 採ってるかい?
軽く いって ポケモンに あげたり
ローストして コーヒーに したり……
アローラでは 歴史が ある
食材なんだ あれは
最近は モーンさんの ポケリゾートで 採れる
ポケマメが いいみたいだね

…… ……

ところで お客さんは 島巡りを してるのかな?
え? なんでって?
だって バックに 証を さげてるじゃない

最初の ポケモンは なににしたの?
へえ そうかい
そりゃ いいポケモンを 選んだね
奇遇だな わたしの 孫もね 同じポケモンを 選んだんだよ
今ごろは メレメレか アーカラか
キミも いずれ 会うかもしれないから
その時は おてやわらかに たのむよ

…… ……

……お客さん なんだか 元気がないね

え? またバトルに 負けた?
ずっと 試練を こえられないの?
ぬしが 強すぎて 苦手なタイプで
そう へえ……

おまけに 仲間を よんできて ボッコボコにされるって?
そうだよねえ 2対1なんて ずるいよね
おじさんも 若いころは ずいぶん 手を焼いたよ

そう それで ずっと 次の島に 行けずにいるんだ
しまキングにも 挑戦できないと
それで もうやめて 帰ろうかと 思ってるのかい

いいよ いいよ
多くは 語る 必要ないさ
長い人生 なかなか 越えられない壁って あるものだよ

そうだな 少し 違うことを やってみるのはどう?
え? なんでもいいんだよ
ポケモンと遊んだり マラサダを食べたりさ
そうだな  服を替えたり 髪型を変えてみるのも いいんじゃない?
着る服や 髪型が 違うとさ 
気分まで 変わってくるものだよ

…… ……

……えっ そんな気分じゃない?
服を買う お金もない?
それなら おじさんの とっておきを 教えてあげよう

そういう時はね 海岸を歩くんだ
波の音がね よけいな雑音を とりはらってくれる
人の少ない朝とか 中でも夜はとくにいいね
朝は 太陽の光が 水面に反射して きれいだし
月の下の 真っ黒な水面が 吸いこまれそうでね
あの海の底には およびもつかない世界が
あるんだろうって 考えると よけいなことを 忘れられるよ

それにね 海岸を歩いてると
いろんなものが 流れ着いている
それを見たり 拾ったりするのが また楽しいんだ

きれいな貝がら だったり
ココヤシの実 だったり
使い終わって捨てられた フジツボのついた道具 だったり

とくに嵐の後は あっと驚くようなものが 漂着するよ
錆付いた船のエンジンを 見つけた事もあったし
見たことのない ポケモンのかたちをした ふしぎなおきもの
わざマシンや なにかの化石を 拾ったこともあったね

こいつは どこから来たんだろう?
そんなことを 想像するだけで 楽しいよ

もちろん 運がよければ 
めずらしいポケモンに 出会うことだってある!
つかまえられれば きっとキミの 力になってくれるよ

…… ……

……前置きが 長くなったね
おじさんも 昔ね そうやって 落ち込んで
前に すすめないことが あったんだ
そんな時に カフェスペースの おじさんがね
ちょっとサービス してくれたんだ

これ なんだか 知ってるかい?
え? 知らないの? 
島巡りと同じくらい 有名だけどな

これはね マメビン だよ
アローラ地方の 風習でね 
ビンに ポケマメを 7ついれて 
いいことがあるように って願って 海に流すのさ

ポケマメの色によって こめる願いが違うらしいけど 
まぁ細かいことは おじさんも 知らないから
興味があったら 調べてみてよ

マメビンを 拾った日には いいことがあるんだって
おじさんが 海岸を歩くのも 
これを 拾うのが 楽しみだからなんだ

観光客が 記念に 流していくことも 多いし
ピークの季節だと けっこう 流れ着くよ

これかい? 
これは 1週間くらい前に 海岸で 拾ったんだ
え? どうするのかって?
まあ見てなよ

まず マメビンから ポケマメを出して
フライパンに 入れて
モンスターボールを 出して……

さあ出番だ!
ちょいと夜遅いが ひと仕事頼むぞ!

まあまあ そんな顔するなって
起こしたのは 悪かったよ
でも お前がツツケラだったころ 俺達だって 世話になったろ?

え? 世話になったのは 俺だけだって? 
そこを ほら なんとか 
いいから くちばしキャノン 頼むよ 
あ 加熱だけで 打たなくていいからな?

…… ……

うん そうそう いい感じ 
焦がしすぎないように 適度に転がして 均等に……
うん いい匂いが してきたな
そうそう うまい うまい
やっぱり ポケマメのローストは お前のくちばしに限るな

ん? ドデカバシ 見たことないのかい?
ツツケラの 最終進化系だよ
くちばしに 発熱する器官があってね
怒ったりすると くちばしが赤くなるんだ

おやつの ポケマメを炒ってくれたり 
朝食べる トーストを 焼いてくれたり……
強くて 実用的で 愛嬌もあって
1羽で 3匹分 おいしい…… 
それが ドデカバシ

とっても 頼りになる
おじさんの じまんの ポケモン
キミも ツツケラを 育ててみるといいよ

うん! ありがとう!
いい感じにローストできたな! いつもながらさすがだ!
じゃあ あとは まかせてくれ

ローストした ポケマメを ミルに入れて
冷めないうちに 挽く
こうやって ざっくりと 大雑把にひくのが コツなんだ
ようし いい感じの 挽き具合に なったな!
あとは こうやって 回し入れるようにして 
お湯を 注いでいくんだよ

…… ……

さあ お待たせ ドデカバシローストのコーヒー だよ
アローラにいる どこかの 誰かが 選んだ
7種類の ポケマメを ブレンドしているんだ
どこかの 海岸で 
いいことあるようにと 願って 流したポケマメ
それをいって いれたコーヒーは
涙と 汗と 海の塩辛さを 含んでいる

グランブルマウンテンとは
一味 どころか 二味 三味も 違う……
マメビンが 流れ着いたとき 限定の サービスさ

おじさんはね
このコーヒーを いれてもらって 決めたんだ
島を巡りは ともかく
こいつを ぜったい ドデカバシにしよう ってね……

…… ……

…… ……

…… ……

おっと 昔ばなしをしている間に 日付を またいでしまったね
これは お茶菓子の替わりの サービスだよ

ポケマメを 7つ選んで
このビンに入れて 海に流してみて

きっと 誰かのところに 流れ着いて
拾った人を 元気にしてくれるはずさ

…… ……

それでは またの お越しを お待ちしているよ

今日は いいこと ありますように!

ポケモン民俗妄想まとめ(6日1日)

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チルタリス
夏に出来る巨大な積乱雲を昔の人はチルタリスの巣と呼んでいた。巨大な積乱雲が雨や雷を出しきると、最後に残るものがチルタリスである、と考えたのだ。
そういう意味でチルタリスは雨を呼ぶポケモンでもあった。

ボスゴドラ
製鉄技術が未発達な頃は、ボスゴドラの身体の鉄を材料として様々なものに加工した。
ボスゴドラを倒して、その身体を納めるとその年の税金や労役を免れたというが、それは命がけの行為であった。

モスノウ
昔、モスノウの姿を見た王女が、モスノウの羽のような透けた布を纏ってみたいと言ったので、国中探したが見つからない。そして職人が苦心してそれに近いものを作り出した。それがレースであり、当時は糸の宝石と言われ、屋敷ひとつ建つと言われるほどに高価なものだった。

ヌケニン
昔、ある夏にとある森でテッカニンが一斉に進化、近くにあったフレンドリィショップに売っていたモンスターボールの全部にヌケニンが入り込んで売り物にならなくなったという事件があったらしい。これは怪しげなおっさんからヌケニンを500円で買ったという元虫取り少年から聞いた噂である。


パルシェン
野生のパルシェンとバトルした後、足元に転がったトゲキャノンを見たところ、変な形のトゲがあった。砕いてみたところ、ビンに入れて海に流した手紙だった為、返事を書いて送った、というニュースが新聞に載った事があった。

リグレー
家にリグレーがいるという少年はある晩、家のテレビで映画を見た。宇宙人が環境変化で住めなくなった母星から離れ、旅をして、今少年の住んでいる星にたどり着く内容だった。
このような映画を見たという証言は時たま聞かれ、そのうちの何人かは有名なSF映画監督になった。

ランクルス
昔、ある少年が砂漠で大怪我をし、出血して瀕死の状態になっいるところ、ランクルス達が現れ、手を繋いでくれた。すると、ランクルスを包む液体が体内に流れ込み、血の代わりとなって、彼は一命をとりとめた。
「一時期は彼らと交信できた。どこにいるかがわかったし、簡単なコミュニケーションもとれた」
大人になった青年は話してくれた。
今は、と聞くと
「もうできない。体内の血が完全に人間のものに入れ替わったんだと思う。さみしいけれど、でもきっとそれでいいんだ」
と、彼は語った。