とあるぬいぐるみ店の話
私の地元、ホウエンのとある町のアーケードには地下街がある。学校帰りに時々寄っているのだが、最近そこに気になるお店が出来た。ぬいぐるみの店である。
ガラス越しに中を覗くとたくさんのジュペッタが並んでいる。大小様々で汚しの具合はも色々。ツギハギがあったりボタンがついてるようなのもいた。
もちろん本物ではない、ぬいぐるみである。
……にしてもリアルである。
ふと、お店の奥の女主人と目が合った。オカルトマニアがそのまま歳を取ったような彼女はにこりと笑うと手招きをした。
「いつも見ているのね。気に入った子がいたら持って帰ってもいいのよ」
と、彼女は言った。
彼女が云うにはここに並んでいるのは元本物らしい。
「大丈夫よ。中身はもう成仏してるし、クリーニングして綺麗にしてるから。襲ってきやしないわよ」
女主人は私を店の端のテーブルに案内するとお茶を入れてくれた。そして自身の本業について語り始めた。
なんでもこの女主人、夜は除霊師をしているというのだ。
「特にあそこのショーケースに飾っている大きいのは苦労したわね。呪いがとっても強くて見境がなくって。自分を棄てた女の子に似てる子を三人も殺ったのよ。ちなみにこの右の子はね……」
彼女は次々とぬいぐるみごとの武勇伝を語って聞かせた。なんでも呪いが強いジュペッタほどいいの感じの商品になるらしい。そんなこんなで幾体かのエピソードを語った後に「まあ、あなたにはこれくらいがいいかしらね」と、一体小さいのを押し付けられた。
「はい、これ説明書。いつか手放す日まで可愛がってあげてね」
家に帰って説明書を読んだところによれば、しかるべき処置をしてあるので、処分する際は普通に捨ててもいいらしい。が、出来れば神社に供養に出してからお焚き上げにするようにとのことだった。
とりあえず今は窓際に飾ってある。母は最初不気味がったものの、二、三日すると愛着がわいたらしく、時々埃を払っては愚痴を聞いてもらったりしているらしい。
ある日、店は唐突に移転していた。
移転先はわからない。
新たな引き取り手を求めて、次の街に行ったのだと思う。